3日目の朝、朝食づくりは私が担当しました。
食事が終われば出航ですが、ここでナローボートのルーティーンワークのおさらい。
給水は昨日紹介しましたが、
毎朝の仕事として、エンジンルームの点検があります。
スターン(船尾)のデッキの板を外すと、エンジンが出てきます。
やることは、オイルゲージの確認。
この写真ではわかりにくいですが、
出航前のインストラクションで説明があるはず。
車のエンジンと同様で、オイル(潤滑油)の量が適正かどうか、
ゲージ(目盛りの付いた棒)を引き抜いて調べます。
次にグリースの挿入。
左下にある真鍮色のコック(グリーサー)、
これを時計回りに1回まわすことで、スクリューシャフトにグリース(油)が挿入され、
スクリューから水が浸入するのを防ぎます。
最後はウィードハッチの点検。
草(ウィード)を取り除くための穴がこれ。
いつもは重い蓋がしてありますが、それを外すと、スクリューの真上が出てきます。
目視で、草などがスクリューに絡まっていないかどうかを確認、
水が濁ったりしていて目視できなければ、手を水の中に突っ込み、手探りでチェックします。
なにか絡まっていると、当然、スクリューの回りが悪くなります。
前日と同様、給水も行います。
この後に出航するのですが、本日の方角は上の写真の右手、
つまりボートのスターン(船尾)側なので、Uターンが必要になります。
ナローボートは極端に細長いので、Uターンは一苦労。
しかしここで、アングロウェルシュのスタッフが来てくれて、
Uターンをやってくれることになりました。
難しいマニューバーなので、ありがたく彼に任せますが、
慣れているはずの彼でも、取り回しには苦労しています。
彼が降りたら、いよいよこのたびのハイライト、ポントカサステ水路橋です!
スキッパーは長男。
目をつぶっちゃってますが、
橋の高さにびっくりしているのか、単につぶっちゃっただけなのか(笑)
長年の夢でもあった、
家族でのポントカサステ制覇!('◇')ゞ
スターンに立つ兄弟。
親バカは、トゥパスに降りて動画撮影です。
トレバーでのUターンから、ポントカサステを渡るところまでを、
バウ(船首)側に付けた動画カメラで撮影した映像がこちら。
早々とやってきた旅のクライマックスは5分ほどで終わり、
我々のドリフター号はトレバーから水路橋を渡った所にあるフロンカサステFroncysyllteに入っていきます。
ここで初めてのリフトブリッジ。
妻が下船して橋を開けましたが、後続のボートが1艘あって、
閉める作業はそのボーターがやってくれました。
ムーアリング(係留所)の脇を通るときは、デッドスロー(最徐行)が原則です。
フロンカサステからリフトブリッジを抜けたあたりまでの動画はこちら。
次にやって来るのはホワイトハウス・トンネルWhitehouse Tunnel。
わすか191ヤード(約175メートル)の短いトンネルですが、
一方通行のため、反対側からのボートが来ないかどうか、
ヘッドライトで確認してから入らなくてはなりません。
もちろん、こちらのボートもヘッドライトを点灯します。
また、万が一に備えて、キッチンの火気はすべてシャットダウン。
我々のボートが出てきました。
フロンカサステから、ホワイトハウス・トンネルを抜けるまでくらいのバウ・カメラの映像はこちら。
ちょっと長いですが、ご興味ある方はどうぞ。
ここで、このカメラのメモリーも一杯になってしまい、お役御免です。
トンネルを抜けると、右側にチャーク・マリーナChirk Marinaが現れます。
今から約20年前、1998年11月に私が初めてナローボートを借りた
ブラック・プリンス社 のベースがここ。
今でも思い出深い場所です。
ブラック・プリンス社は、私たちが今借りているアングロウェルシュ社に比べると、
内装などのレベルが高いボートが多いですね。
もちろん、その分料金もお高いですが・・・・・
スランゴスレン運河は、
チャークから東はだいたい相互通行可能なダブルトラックですが、
河岸が浅瀬になっていることが多く、座礁には要注意です。
本日2番目のトンネル、チャーク・トンネルに入ります。
こちらは459ヤード(約420メートル)と、
先ほどのホワイトハウス・トンネルの2倍強の長さがあります。
トンネル内は一方通行ですから、
先ほどと同じように、ヘッドライトで対向船を確認。
イギリス運河には何か所もトンネルがあって、
こちらのリストにもあるように、一番長いのは5210メートルもあります。
ナローボートのスピードは時速4~6㎞くらいですから、
1時間以上もトンネルの中、ということになりますね。
私自身が経験した最長のトンネルは、
グランドユニオン運河のブリスワース・トンネルBlisworth Tunnelで2794メートルなんですが、
記憶では、この長さでも1時間かかったような。
ちなみに、スランゴスレン運河のように一方通行のトンネルというのは少数派で、
多くはすれ違い可能な河幅があります。
また、トンネルの中にまでトゥパス(馬曳き道)があるというのも稀。
往時、ナローボートは馬に曳かれていましたが、
馬は暗いトンネルを嫌がったからです。
トンネル内では、クルー(船員)が屋根の上に寝転がってトンネルの壁を蹴りながら進む
では、トンネルの入口まで曳いていた馬はどうしたかというと、
クルーが地上をトンネルの出口まで連れて行ったそうですが、
利口な馬になると、人がいなくても、自分で出口までたどり着いたんだとか。
スランゴスレン運河のトンネルにトゥパスが付いてますが、
短いトンネルが多いですから、馬も入ったのかもしれません。
チャーク・トンネルを出たらチャーク・アクアダクトを渡ります。
総石造りのチャーク・アクアダクトは、鉄を各所に使ったポントカサステとよく対比されますが、
設計&総指揮は同じトーマス・テルフォード。
開通は、チャークが1801年、ポントカサステが1805年ですから、
この4年の間に、製鉄技術や、加工方法が飛躍的に向上したことが推測されます。
チャークには、1848年、アクアダクトに並行して鉄道橋Viaductも架けられます。
世界遺産に登録されたポントカサステに比べると知名度が低いチャークですが、
同時に登録されてもよかったのではないか、と思いますね。
ポントカサステ同様、チャークも橋上は一方通行ですので、
反対側からの船がないことを確認してから渡ります。
橋を渡り切るとWelcome to England、イングラドへようこそ、の看板が。
スランゴスレン運河は、チャーク・アクアダクトの東橋詰から西がウェールズ、そこを”国境”にして、東がイングランドになっています。
ランチタイムは、
ライオン・キーズLion Quaysと決めていました。
陸から来るとホテルに見えるんですが、
スランゴスレン運河側には桟橋付き。
ボートが直接付けられるパブはイギリスでは珍しくないですけど、
十分な数の桟橋が用意されているのはうれしいところ。
日本にも、係留OKの飲食店は少ないながらあります。
でも、事前予約が必要だったり、時間単位で係留料を徴収されたり、
ボーターに対する「おもてなし」には雲泥の差があります。
1998年に初めてクルーズしたときは、まだこのレストランはなく、
その次に来た時に発見。
当時はびっくりして、とても新鮮でしたが、
あれからかなり年月も経っているので、砂などが堆積しています。
桟橋があることだけでもありがたいですが、
ぜいたくを言わせてもらえれば、きちんと整備してほしいところです。
お店に入ったのは11:00頃。
でも食事のオーダーは11:30から、と言われましたが、
飲み物だけならもうOKということで、テーブルに案内されて待ちます。
これこそ、素晴らしい「おもてなし」じゃないですかね。
ビールなどを飲みながらメニューを拝見。
私と妻は「サンデーロースト」にしました。
イギリスには、日曜日にローストビーフを食べるという伝統があり、
日曜限定でローストビーフがメニューが載るパブやレストランがあります。
このライオン・キーズのサンデーローストは、2人前からの注文で、
肉が牛、豚、羊などからチョイスできます。
私は羊、妻は牛を選びました。
長男は8オンスのでっかいステーキ。
いつもメニューであれこれ迷う次男がようやく決めたのは、鴨の足のロースト。
鴨は運河のあちこちにいて、さきほども餌やりを楽しんでいた次男(笑)
なんだか残酷なような・・・・・・。
こちらのレストラン、パブに比べるとお値段は張りますが、
料理の質といいサービスといい、スランゴスレン運河では絶対外してほしくない店です。
4人とも満腹になったところで、再び出航です。
運河沿いには、ボーターに向けて、いろいろなオブジェを飾っている家も少なくありません。
橋の下で、対向するボートつすれ違うために待機。
建設費を抑える、すなわち短く造るために、
橋の下だけは1艘しか通れない幅しか確保されていません。
このNo. 13wの橋には、カフェがありました。
運河の地図には掲載されていなかったので、
もしかしたら最近オープンした店なのかもしれません。
牧場の脇を通ります。
最近、国内外の旅行には必ず持参している
テトラドリップでコーヒーを淹れつつ、
カントリーサイドの風景を楽しみます。
そして、今回の旅初めてのロック、
ニューマートン・ロックNew Marton Locksに到着しました。
高低差を越えるために造られるロック、
日本語では「閘門」という聞き慣れない用語がありますが、
ロック内にボートを入れ、中に注水、または中から排水することで、
ボートを上げ下げします。
ニューマートン・ロックは、アッパーUpperとロワーLowerの2つで、
12フィート4インチ、約4メートルの水位差を越えます。
往路はダウンヒル、水位の低いほうへ向かいますので、
アッパー・ロックから入りますが、まずは順番待ち。
スランゴスレン運河はナローカナルNarrow Canal、
ロックが1艘分の幅しかないので、上下の向かうボートが相互に入って行きます。
こういう時は、たとえ自分の船でなくても、
ロックワーク(作業)に協力し合うのがボーターのお約束。
下から来ている、我が家のようなファミリークルーズ中の子供たちが、
パドル(水栓)開閉やゲート操作をどんどんやってくれました。
この姉妹、なかなかの美人ですよね。
うちの息子の嫁にどうかしら・・・・・・。
そんなことを考えているうちに、うちのボートの番がやって来ましたが、
この美人姉妹がまた手伝ってくれています。
長男も、負けじとゲートを操作。
ボートが出てきました。
ロックを出たところには、アップヒルを待つナローボートの長い列が。
さすが、イギリス運河でも人気ナンバーワンのスランゴスレンだけあります。
続いてロワーロック。
次男も、パドル操作頑張りました!
堅くて、なかなか回せませんが・・・・・・
ニューマートン・ロックから今日の目的地エレズメアEllesmereまでは、
ロックもトンネルもなく、冗長な水路が続きます。
こんなものを運河に面した庭先に立てている家がありました。
小さくてわかりにくいですが、
これ、昔のパーキングメーターです。
運河にはトゥパスという側道が付ていることは書きましたが、
それは片方の岸だけで、対岸は私有地になっていることがほとんど。
ナローボートが係留できるのはトゥパスの側だけで、
私有地には、所有者以外は係留できません。
つまりこれは「ここに係留すると料金を取るぞ!」という、
ランドオーナーの警告、というかジョークなんですね。
写真に映っているボートに並んで係留したのですが、
このボートのオーナーは犬を飼っていて、
犬好きの息子たちは大喜びでした。
この日の夕食は自炊と決めていたので、エレズメアの町まで歩きます。
ベイスンはナローボートできっしり。
ベイスンは、産業革命時代の倉庫街の雰囲気をうまく残しています。
ベイスンに近いスーパー、テスコTESCOはもう閉店していたので、
スランゴスレンに続いて、co-opスーパーで買物です。
町中で記念撮影。
エレズメア、何度も来たことありますが、
小ぢんまりしていて、いい所ですよね。
観光ガイドブックなんかに掲載されていない、
素敵な町を訪問できるのも、運河の旅の大きな魅力です。
夕食は、妻がカレーを作ってくれました。
みんなでいただきながら、
3日目の夜が更けていきます。