運河の鳥たち:水の上の勢力図
2005年 12月 13日
鳥の種類が複数いる場合、餌をゲットできる順番は身体の大きさに比例している。まず体がいちばん大きな白鳥が最前列をキープ、その後ろにカナダ雁が控える。最後列には、おこぼれをもらえないか機会をうかがうカモたちがウロウロ。のどかに見えても、厳しい競争社会が水の上で展開している。
白鳥は、真っ白な体で日本人が大好きな鳥だが、図体の大きさを楯に常に威張っているガキ大将。エゴイスト、といってもいい。長い首を蛇のようにくねらせながら餌をひろいまくり、大きな羽根でほかの鳥をピシャリと抑え込む。ナローボートやボーターにはもう慣れっこだから、ボーターに首を差し出して餌を要求するものもいる。
イギリスの白鳥はすべて王室の所有物だそうで、毎年白鳥にその印をつける儀式が行われている。王室に厚く保護されているとくれば、増長した行動もしかたないか。
カナダ雁も白鳥に負けず気が強い。特に卵を温めているのはナーバスで、トゥパスの真ん中に堂々と座り込んでいながら、通る人をフーッ! と威嚇する。ガン(雁)をつける、とはこのことか。
反対に、卵から孵ったばかりのカナダ雁の雛たちがピーピー鳴きながら親鳥のあとを追っかけているのは、ほほえましい初夏の風物詩だ。ナローボートが近づくと雛は一斉に親鳥の元に集まるが、雛が一匹でも取り残されると、ボートが通り過ぎるまで親鳥が心配そうに待っている。
水鳥の中でもなんとも控えめなのがモーヘンである。小さな赤いくちばしがチャームポイントの小鳥だが、このモーヘンだけは積極的にボートに寄ってこない。ボートが来ると、ちょっと距離を置いていっしょに泳ぎ始める。ボーターがそれに気がつきパンくずなどを投げてやると、素早くそれをくわえて草の陰にもぐりこむ。そこには、さらに小さいモーヘンの雛がお腹をすかせて待っているのだ。
白鳥やカナダ雁のように1日に何回も現れる鳥に対して、めったにお目にかかれないものもいる。カワセミはその代表で、その姿が木の枝に見えると、ボーターたちも声をひそめて指差しだす。「白鳥号」という名前を付けたナローボートを見たことがない一方、「カワセミ号」という名前は実に多いところをみると、ボーターにとって憧れ、というか運河を代表する鳥と認識されているのだろう。
勝ち組に負け組み。図々しい奴、臆病な奴。運河に集う水鳥の世界にも、どこか人間社会を生き写しているような風景が展開している。
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☆発行者 カナルマニアHP