シャワーとトイレ:ボートの快適性を決めるポイント
2005年 12月 26日
「あのお、シャワーはどこにあるんですか?」
するとボートの説明係の人は、
「ありませんよ。どうしてもっていう人はデッキでポータブルシャワーでも浴びるんですね」
さもシャワーがないのが当たり前だという感じで言う。
もしこれがイギリスなら、このボートは絶対に売れないだろう。船外機式の小型船ならともかく、お値段数千万円という大型クルーザーにシャワーがないとはイギリス人には想定の範囲外に違いない。
ナローボートはどんなに小さくてもシャワーがある。それもイギリスの家庭にあるシャワーとまったく変わらない。湯加減の調節ももちろんできる。
朝イチでシャワーを浴びるのがイギリス人の習慣だが、日本人である私たちは、やはり1日のクルーズが終わったところで熱い湯をいただきたい。上がったらすぐに冷蔵庫から缶ビールを取り出して流し込む至福のひと時。ああ、日本人でよかった!
ホテルを選ぶとき、日本人はバスタブの有無にこだわるそうだ。残念ながらナローボートにバスタブはないが、近いものはある。「シャワータブ」というもので、風呂桶のような小さな箱の中に座る場所が付いていて、そこにちょこんと腰掛けることができるのだ。これは風呂に使っている感覚にけっこう近い。
ナローボートのシャワーが家庭のそれと唯一違うのは、落ちた水の排出をしなければならないこと。落ちた水を受ける位置が運河の水位より低いので、ポンプを使って強制的に排水する必要がある。
それにはポンプのスイッチを押せばいいだけのことなのだが、それを説明すると、
「え? シャワーの水って運河に流しちゃうんですか?」
と驚く人が意外に多い。
ナローボートは、キッチン、洗面所、そしてシャワーで使った水は運河に捨ててしまうようにできている。汚い、といえばそれまでだ。運河には流れがほとんどないから、洗剤もシャンプーも水の泡沫(うたかた)となって澱み続けるだろう。
しかし運河に浮いているボートの数など、道路の車に比べればごくわずかなものである。排気ガスが出ない車はないわけだから、人々は多少なりとも排気ガスを呼吸してでも生きている。水の汚染ということでは、家庭排水がもたらすダメージに比べてもボートの汚水はわずかな影響しかない。もちろん排水はきれいなほうがいいに決まっているが、マクロな目で見た場合、ナローボートの汚水などたかが知れているのだ。
一方、トイレの汚水はちゃんとタンクに貯めるようになっている。日本のプレジャーボートのトイレは海に直行だから、これはイギリスのほうがちょっと環境フレンドリーか。
しかし貯まったものいずれ一杯になる。マイボートの場合は、カセット式のトイレ、つまり「おまる」もあって、専用の場所でひょいと捨てればそれでおしまい。
ハイヤーボートの場合は、タンクが一杯になったところで「ポンプアウト」する。これはバキュームのことで、ポンプで汚物を吸い出して処理するもので、マリーナなどでやってくれる。
家庭では洗面所で使った水や自分の汚物がどうなるか気にする人はいない。ナローボートのような狭く限られた空間で、日常は無視してしまっている汚水のことを改めて考えてみてはどうだろうか。自分が使った水なのだから。
もっと詳しく知りたい方は『英国運河の旅』をどうぞ!
☆発行者 カナルマニアHP