イギリスの運河ではナローボートという船を借りて、誰でも免許なしでクルーズが楽しめる。『英国運河の旅』、『イギリス式極楽水上生活』、『イギリス水辺の旅』の著者が具体的な旅のノウハウを伝授します。


by narrowboat
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カテゴリ:エッセイ( 39 )

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『イギリス式極楽水上生活』(光人社刊 2200円+税)

ロックや橋など、
運河では毎日目にする建築物から、
環境問題やウォーターフロントの再開発にいたるまで、
80本のトピックスを散りばめた
イギリス運河本の総決算です。

ナローボートの予定がある方はもちろん、
もう経験した、そして将来いつかは・・・・・、
と考えている方にも絶対損はさせない1冊。

書店、ネットショップでお買い求めください!
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by narrowboat | 2006-12-31 23:42 | エッセイ | Comments(3)
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これまでたった1冊しか本を出していない私ですがorz
ようやく2冊目が日の目を見ることになりました!

今回の本は、
このブログ「エッセイ」で紹介してきた
運河やボートの話題を大幅に加筆訂正したものです。

発行されたらまたお知らせしますね!
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by narrowboat | 2006-06-09 18:51 | エッセイ | Comments(2)
2003年の夏、私は妻といっしょにレスター・リングの旅に出かけた。ノーザンプトン州、グランドユニオン運河のウィードンにあるハイヤーカンパニーでボートを借り、2週間かけて中部イギリスをゆっくりと旅する。

「リング」というのは、運河が輪っかになっているルートのこと。右回り、左回りどちらを選ぶかはボーター次第だが、一筆書きのように運河をクルリと一周してくるものだ。
そんなことをわざわざ書いたのは、リングというのはそれほど多くはないからである。

イギリスの運河のネットワークは全国規模なのだが、その密度は道路には敵わない。水路で行けるルートは限られている。しかも、せいぜい1週間や2週間のクルーズとくれば、出発地からの行動範囲はおのずと限られたものになるのだ。

結果、ハイヤーボートを利用した場合は、ハイヤーカンパニーから目的地まで半分の日程で行き、残りの半分で帰ってくるしかない。同じルートを往復するのである。

日本人にこれを言うと、みんなの顔が一瞬で落胆に変わる。

「同じ場所を2度通るなんてムダ!」

しかし、はたしてそうだろうか。実は人間というものは、あまり後ろを振り返らない動物である。自分の背中に見える風景は正面とはまた違った趣だったりするのだが、それに気がつかない。たとえ同じ場所を通っても、行きと帰りでは全然違う景色が目に飛び込んでくるのだ。

自分自身、それにいっしょにクルーズした日本人は異口同音にそう漏らすのだが、経験したことのない人に説明してもダメみたいだ。

そんな人にご提案したいのがリングである。いくつかの運河を組み合わせて環状線を作ってしまうので、ルートの取り方によって何十通りものリングが存在することになる。だが時間のことを考えると、現実的に設定できるのは10リング程度ということになる。

私たちが旅したレスター・リングというのは2週間が標準所要時間。妻も私も2週間の休みが取れたこともあって、これまでやったことのないリングに挑戦してみることになったのだ。ちなみにレスターというのはイギリス中部の州の名前で、このリングの大部分がレスター州にあることからそういうネーミングになっている。
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ウィードンを出航した私たちはグランドユニオン運河を北上する。半日だけは最終日も同じ運河を通るのだが、ノートン・ジャンクションという運河の交差点からはいよいよリングに突入だ。私たちの選んだのは左回り。日本語と同じく、左回りのことを英語では「反時計回り(アンチ・クロックワイズ)」というが、それを選んだ理由は特にない。

リングの最初は、同じグランドユニオン運河でもレスター・セクションという支線だ。それをトコトコ北上していくと、有名なフォックストンの10段ロック。そしてレスター州の州都レスターに近づく。レスターはインド系住民が多いことでも有名で、ここでは美味いインド料理にありつく。

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さらに船を進めてソアー川に、そしてトレント川との大交差点を左折するとそこはトレント&マージー運河。途中バートン・アポン・トレントでビール博物館を見学し、フラドリー・ジャンクションを左折するとそこがコベントリー運河。ここからはルートの後半で、今度は南下することになる。


コベントリーから、水路はオックスフォード運河に名前を変え、ラグビー発祥の地でも知られるラグビーを通過。そしてブローンストンの大マリーナを横目で見ながら再びグランドユニオン運河に帰ってくる。

最終日の前日、初日に通ったノートン・ジャンクションに私たちは再び到着。地図通り進めば必ず到着すると信じてはいたものの、ジャンクションの看板を見たときは、これまでのクルーズでは味わえなかった達成感を感じていた私だった。



もっと詳しく知りたい方は『英国運河の旅』をどうぞ!

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by narrowboat | 2006-05-02 19:53 | エッセイ | Comments(0)
ナローボートの旅をキャンプにたとえる人が時々いる。なるほどカントリーサイドを旅する、というポイントで見ればあながち間違っているとはいえない。

しかしナローボートの中には家と同じ備品がそろっている。電気製品はもちろん、食器やナベカマの類も全部ボートに備え付けだ。家具や食器といっしょに貸すというのはイギリスではアパートも同じだから、ナローボートが特別というわけではなく“文化”とも言える。いずれにしろ、紙やプラスチック製のキャンプ用品を持ち込まなければいけないキャンプとはここが異なる。自分たちで用意しなければならないのは食料とわずかな雑貨だけなのだ。

ナローボートのキッチンの戸棚を開けてみる。そこにはお皿や鍋がきれいに積み重ねられている。
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お皿は大中小、少し深めのシリアルボウル、コーヒーカップ、ナイフ、フォークなどはボートの収容人数分ある。半熟卵を立てるエッグスタンド、トーストを並べるトーストスタンドもごていねいに用意してあるところはさすがイギリス。水用のグラス以外にビール用のパイントグラスが用意されているのも、かの国の男(女もか?)がいかにビールを飲むかをよく示している。

鍋も大中小あって、そのほかにフライパン、煮込み料理用のガラス鍋などがある。なにがそろっているのかはハイヤーカンパニーやボートによって異なるので、出発前にリストを確認しておくといいだろう。

だがナローボートに用意されているのは、あくまでイギリスのキッチンの標準装備、イギリス人の料理が基準になっている。プディングを作る型まであるのはさすがだが、そのイギリス流をちょっとでも外れると困ることがままある。

いちばん参ったのは包丁だ。包丁は、見てくれは日本と同じようなものが1本あるのだが、実に切れない。いや、切れないというか、イギリスの包丁は刃がギザギザなので、切りにくいこと極まりない! 別にナローボート用の特別なものではなく、イギリスでは家庭でも同じ包丁を使っている。包丁を見るだけで、イギリス人がいかに料理をしないかということがバレる。だから、料理の腕を十二分に振るいたい人は、日本からマイ包丁を持っていくしかないだろう。

私がクルーズするときは、必ずといっていいほど袋入りのインスタントラーメンを持ち込むのだがラーメンに適したお皿というものもない。シリアルボウルでは小さすぎるし、だからといって鍋から直接というのも味気ない。まあ、これはしかたないか。当たり前だが箸もないので、割り箸は私の必需品になっている。

インスタントラーメンは日本から持って行ってもいいのだが、イギリスでも中華食材店に「出前一丁」が売っている。オランダの工場で生産されているらしいのだが、日本ではお目にかかれないフレーバーもあって、それなりに美味い。ちなみにスーパーマーケットで売っているイギリスのカップ麺、これは日本のカップ麺と同じだと思って食べると必ず後悔する。

ラーメンで思い出した。日本料理を作ろうと思ってご飯と味噌汁を用意すると必然的にシリアルボウルを使うことになるのだが、4人乗りなら4枚しかないから足りなくなってしまう。洋食屋さんよろしくご飯は浅い皿から食べるしかないか。



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by narrowboat | 2006-04-20 21:31 | エッセイ | Comments(0)
「汽笛一斉新橋を」

で始まる『鉄道唱歌』。その当時の新橋とは、現在の東京・汐留にあたる。旧国鉄の大貨物基地が置かれた汐留は今、巨大なビル群が林立するウォーターフロント開発地区として観光名所にもなっている。

使われなくなった産業用地の再開発、特にウォーターフロントおける開発に注目が集まっているのは日本だけではない。イギリスでも、水辺の工場や倉庫の跡地をオフィスビルや住宅、ショッピングセンターなどに活用しようという動きが盛んだ。

イギリスのウォーターフロント開発は、“鉄の女”マーガレット・サッチャーが1979年に首相の座に就くやいなや始まった。彼女のやり方は、民間資本による旧工業地域の活性化。「特区」を設定して「民活」を利用する、日本流に言えばこんな感じになる。

いちばんよく知られているウォーターフロントの再開発は、ロンドンの東にあるドックランズ地区である。テムズ川に面したこのエリアにあったドックが閉鎖された後、サッチャー氏の指導の下で国家規模の大再開発が実施され、ショップやアトリエが入居。今ではどんな観光ガイドブックにも掲載されている場所になった。

ドックランズの再開発はコストも費用も例外的にでかいのだが、地方都市ではもっと小さい規模でウォーターフロントのプロジェクトが実施されている。その基軸になっているのが運河なのだ。

元はいとえば産業用に造られたのだから、町中に運河があるのは工業地帯と決まっている。だが工場や倉庫が出て行ってしまったその場所は荒れ放題。人々が恐れをなして近づこうとしない危険な場所になっていた。このように町の中心が空洞化する状況を「インナーシティ問題」というが、工業で栄えたイギリス中部や北部の町ではどこも同じ問題を抱えていたのである。

中でもミッドランズ(イギリス中部)の中心都市バーミンガムは、運河を軸に使った再開発が成功した例として注目されている場所である。毛細血管のように入り組んだ運河ネットワークは、まさにベニスそのもの。ロンドンにリトルベニスという運河の名所があるが、「ベニス」という称号を付けるべきはバーミンガム、と言っていいくらいである。
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ジェームズ・ワットの蒸気機関が生まれたバーミンガムも、イギリスの工業力の衰えとともにインナーシティ問題に悩まされるようになっていた。だがロンドンに次ぐ規模の美術館や博物館、そして幕張メッセのような大国際展示場を誘致し、足元を流れる運河とその周辺をドラマチックに生まれ変わらせることに成功した。

その結果、バーミンガムの中心は鉄道駅の周辺ではなく運河の周辺に移った。メインストリートの「ガス通り」が架かる橋の上から見渡せるのは「ブリンドリーズ・プレイス」と呼ばれる再開発エリア。イギリスで初めて運河建設を手がけたエンジニア、ジェームズ・ブリンドリーの名前を冠したこの場所にはパブ、レストラン、ショッピングモールなどが入居し、週末ともなれば夜中まで人々の姿が絶えない。ところがその外観は赤茶色のレンガで統一され、運河にその姿を映すその風景は、まるで産業革命華やかな頃の町そのもの。そして運河にはもちろん「リアル」なナローボート、これも200年前と同じ姿で行き来しているのだ。

工業都市ではバーミンガムと並んでその名を知られているマンチェスターでも、同じような再開発が実施されている。「キャッスルフィールド」というその場所は、元々ロッチデール運河とアシュトン運河の間にある積み替え港だった。運河交通が衰退後、バーミンガムと同じように放置されていたのだが、スポーツセンターやパブなどを誘致して再開発、今では若者の最先端スポットになっている。私もキャッスルフィールドのパブに行ったことがあるが、暑かったこともあって、ちょっとポッシュ(きどった)な若者が運河に面したデッキでビール片手に涼んでいた。

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蛇足だが、マンチェスターで泊まるなら、ここキャッスルフィールドにあるユースホステルがおすすめ。運河を見渡せる最高のロケーションで朝食はバイキング、それでいてユースホステル料金なのだから、これに勝るユースホステルは世界中探してもほかにないと私は思っている。

マンチェスターではもう1ヶ所、「サルフォード/トラフォード」地区でも大きな再開発が見られる。市内から路面電車で行くと車窓から広大な水辺が見えてくるとその場所がサルフォード、その対岸がトラフォードだ。ここはリバプールとマンチェスターを結ぶマンチェスター船舶運河の一大基地があったが、舟運の衰退で再開発された。現在はアウトレットが売り物ショッピングモール、シネマコンプレックスなどが入居していて、週末にはマンチェスター市民が大挙して遊びにやって来る人気スポットになった。またトラフォードの側に見えるスタジアムは、イングランド・プレミアリーグの常勝チーム「マンチェスター・ユナイテッド」の本拠地だ。

運河周辺の再開発ではほかに、北部リーズの「グラナリーワーフ」、同じ北部シェフィールドの「ビクトリアキーズ」などがある。これらの再開発プロジェクトが評価されているのは、運河と一体となって整備された結果、町の歴史を映し出すテーマパークとなりえたことだ。レンガ造りの雰囲気を持つ低層の建物群は200年前からタイムスリップしてきた「リアル」な町並みを思わせ、そこに歴史の息吹を感じるのである。

日本のウォーターフロント再開発は、その地域の歴史や個性を無視した大規模なプロジェクトになる傾向がどうしても強い。冒頭に出した汐留もそのいい例だが、背の高い建物を水辺に置くだけではウォーターフロントである意味はなく、そこに出現するのは「プラスチック」な町並みにすぎない。


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最後にロンドンに戻り、オープンしたばかりのパディントン港を紹介しておこう。鉄道のパディントン駅のすぐ裏側にあった広い貨物港で、ここも再開発で職住兼用のビルが港といっしょに整備された。水辺のアパートに住んで、週末はその下に置いたマイボートでロンドンの水上散歩を満喫し、日が傾いたら港のオシャレなレストランでディナー。そんなウォーターサイドライフが、まもなくこのパディントンで始まろうとしている。



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by narrowboat | 2006-03-27 13:49 | エッセイ | Comments(0)
イギリス人のガーデニング好きは日本でも有名だ。「イングリッシュ・ガーデニング」に憧れる日本人が、公共施設の庭はもとより、個人宅の庭にまで押しかけているそうだが、ちょっとでもスペースがあれば花を植えたいと考えているイギリス人が多いというのはまんざらウソでもない。その格好の例がナローボートだ。

初めてナローボートを見たとき目を引いたのは、その形もさることながら、みんな屋根の上に鉢を並べていたことである。ナローボートの長い屋根の上に、大小さまざまな植木鉢やプランターがズラリ。これはいったいボートなのか家なのか? まったくもって不思議なモノが水のうえを移動している。
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ボーターだってガーデニングがしたい。ナローボートの屋根は彼らの立派なガーデンでもあるのだ。冬はともかく、暖かい季節になると色とりどりの花が無機質な鋼鉄の屋根の上に咲き乱れる。中には野菜を栽培しながらクルーズしているボートもあって、こちらはデコレーションというよりも実用本位というガーデニングだろう。

ボートでのガーデニングは、ナローボートでしか見かけない。プラスチック製のボートだってプランターを置くスペースくらいはありそうなものだが、こちらは「ボートはボート」と割り切っているのか、小鉢のひとつもない。このあたりも、ナローボートのボーターが他の船と一線を画しているところなのだろう。

同じ鉢植えでも、盆栽を屋根に並べていたボートに出会ったことがある。ロックでいっしょになったそのボーター会って話を聞くと、やはり「ボンサイ」であるという。日本の盆栽や「コイ(錦鯉)」は世界中に愛好家がいるとは知っていたが、ナローボートの屋根にまで日本文化が輸出されているとは、ちょっと誇りに思う。

限りある小さなスペースをいかに美しく飾り、楽しむか。考えてみれば、運河やナローボートは盆栽の世界に似ている。何千キロものネットワークといえども、しょせんは狭いイギリス本土。その中でチマチマと動く、これまた小さな船の中をどうデザインするかに心を砕く。自分だけの空間を作り上げる喜びは、まさに盆栽と共通するものである。
「世界のほかの運河は旅しないんですか?」
「海ではクルーズしないんですか?」

そういう質問をよく受ける私だが、正直、あまり興味はない。それは、盆栽愛好家に
「なんでもっと大きな庭でガーデニングしないんですか?」
と聞くに等しい愚問だからだ。

まったく興味がないわけでもないのだが、運河やナローボートにハマった人は、その探求だけでも時間がいくらあっても足りなくなる。
「イギリスが終わったら別の場所も・・・・・」
と適当な返事をしてはおくが、イギリス運河を極めるのには自分の余生では短すぎるくらいなのだ。

自分の興味の分野を広げていくのではなく、むしろ狭い範囲で深めていく。ナローボートはボーターひとりひとりの小宇宙なのである。



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by narrowboat | 2006-03-22 17:30 | エッセイ | Comments(0)
「ナローボートって、舵の効きがすごく遅いですよね」

イギリスから帰ってきて私にそう報告してくるのは、例外なく日本でもボートやヨットの経験がある方々である。

たしかにナローボートの舵は遅い。日本でエンジンつきボートの操縦経験がまったくない私でも同じ感想だ。

ナローボートの舵を左右に動かすのが「ティラー」という棒状の舵取り装置。いや“装置”というほどのものではなく、単純に舵とつながっているだけの棒だ。動かしているのを見ると和船の「櫓」のようでもあるが、舵と直列しているナローボートのティラーを進行方向右に押すことで舵は左に振れ、船体も左旋回する。右はもちろん逆になる。

実際にティラーをグイと押してみる。ところが押してから1~2秒は船が微動だししないのだ。あれ? と思っていると、ようやく船首が動き始める。ようやく方向が変わってティラーをまっすぐに戻す。すると今度は船首が曲がったまま帰ってこない。

ナローボートのプロペラは小さなものが1個、その後ろにこれまた小さな舵が1個ついているだけである。これだけで全長は15~25メートル、鉄道車両ほどもある船体をコントロールしようというのだから、そもそも無理があるのだ。
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ではどうしたらうまく舵を切れるか? それは至極単純で、曲がりたい場所のちょっと前、アクションを数秒前に起こせばいい。そして旋回を終わらせたい場所のちょっと前でティラーを戻す。このタイミングさえつかめれば簡単なのだが、なまじ日本でボートの経験があると、このナローボート独特の時間差に戸惑ってしまうのだろう。

少し慣れてくれば、こんな上級テクもある。舵を切られた船というのは、旋回が終わっても慣性で船首は曲がり続ける。その動きを止めるために、ティラーを一瞬逆に切るのである。これが「アテ舵」というものだが、これが使えると、どんな狭い水路や急なカーブ、ジャンクションでの方向転換もラクラク行える。

そう考えてみるとナローボート、というか船という乗物は車よりバイクや自転車に近い。カーブで重心を傾け、戻すときには反対側に重心を移す。私は通勤にスクーターや自転車を毎日使っているのだが、カーブをうまく回れたかどうかで気分が違う。ナローボートでも、そのワンテンポ遅れの操縦感覚をうまく使ってきれいに旋回できたときは、その夜のビールの味もうまい。

ナローボートがバイクや自転車と似ていることはほかにもある。車が一番安定している状態とは「停止」していることだろう。だがバイクや自転車は走っていないと倒れてしまう。ナローボートの場合、止まっていても倒れることはないが、同じ場所に静止しているのは難しい。いや不可能、といってもいい。運河にいくら波も流れもないといっても、水は常に動いている。そこに少し風でも吹けば、車のようにずっと同じ場所に居続けることなどではしない。

ナローボートならではの操縦技術はたしかにある。だがしょせんは歩く速度での話。乗る前から頭を抱える必要はゼロである。

ちなみに船の右旋回を日本語で「面舵(おもかじ)」、左旋回を「取舵(とりかじ)」というが、英語では船の右側(右舷)を「スターボード」、左側(左舷)を「ポート」という。その語源については専門書にお任せするが、ナローボートのボーターでスターボード、ポート、と言っている人を見たことはかつてない。そんないかめしいジャーゴン(業界用語)よりも、ライト、レフトというイージーな単語の方がナローボートの気楽さにはお似合いだと私も思う。



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by narrowboat | 2006-03-10 18:59 | エッセイ | Comments(2)
リーズ&リバプール運河をクルーズしていた私たちのナローボートは、最後の目的地リーズに向けて最後のロックに入ろうとしていた。だがロックのまわりではなにやら子供たちが大騒ぎしている。彼らもボートで来ているのだろうか。

ロックキーを持ってボートから降り、ロックに近づいてみると、なんとその子供たちはロックの中で泳いでいるではないか!

はしごから上がっては次々と飛び込む子供たち。どうしてこんな汚い水の中に・・・・・。

私たちのボートが来たので仕方なく岸に上がりはじめた彼ら、するとそのうちの1人が平然とタバコを吸い出したのである。日本で言うと小学校2~3年生くらいだろうか、タバコをふかす高校生は日本でも珍しくないが、白昼堂々と人前でタバコを吸う小学生はさすがに見ない。

驚いたのはそれだけではなかった。子供たちの親らしい大人もロックにいたのである。つまりロックでの遊泳も喫煙も、親の“公認”だったのである。

イギリスの運河は、石炭などの原料の産地と工業都市を結ぶために建設されたものだ。その途中は牧場や畑、いわゆるカントリーサイドになるが、両端は当然、街である。道路と同じことで、田舎があり、街があるのが運河なのだ。

ところがこれらの街は、イギリス重工業の衰退とともにどんどん寂れていき、いわゆる「インナーシティ問題」がクローズアップされるようになる。インナーシティ問題とは、都市中心部に空き家になった工場や倉庫が増えることで、治安の悪化などが懸念される。だがウォーターフロントの再開発プロジェクトなどにより、それも解決の方向にある。

しかしそれらのプロジェクトから取り残されてしまっているのが、街に入る手前、周辺のエリアである。

冒頭で書いたリーズも、市内の港「グラナリー・ワーフ」こそ再開発が進んでおしゃれな雰囲気だが、その手前は荒んだまま。マンチェスター、バーミンガム、そしてシェフィールドと運河の水辺の再開発で有名な場所を私はいくつも訪ねたが、どこでもプロジェクトエリアのすぐ外側にかなりヤバそうな雰囲気が今も残っているのだ。
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このような場所は、自然とワルの溜まり場となる。悪党が集うのは港か川岸と日本でもイギリスでも相場が決まっている。それは誇張にしても、運河沿いの廃工場の落書き、立小便の臭い、水面に浮かぶプラスチックのごみの束を見れば、誰だって逃げたくなる。

ナローボートで何日かクルーズする以上、こんなバッドエリアを通らざるを得ないことはままある。だがワルたちが跋扈するのは、これも夕方以降と相場が決まっているので、日中太陽の高いうちに通過するようにすればいい。もちろん係留するとしたら昼間だけで、夜を過ごすことは絶対に避ける。

イギリスの運河では、ワルたちの「バンダリズム」も問題になっている。公共物などをむやみに破壊する行為がバンダリズムだが、公衆電話やバス停だけでなく、運河もバンダリズムの標的。運河の専門雑誌やウェブサイトなどでも、ロックその他の施設がバンダリズムによって破壊された記事を目にする。

自分たちの先人が作り、自分たちが育ててきた偉大な遺産をむやみに破壊するなどという蛮行は腹立たしく、残念でもあるのだが、相変わらず高い失業率の中で、やり場のない怒りを運河に向けてしまわざるを得ないのもイギリスが抱える現状なのだ。

しかし私は、これもイギリス運河の宿命、というか魅力のひとつだと思っている。もしこれが日本なら、そんな危ない場所は埋めてしまえ! とばかりに運河そのものが消え去ってしまった可能性は高い。だがイギリスでは、運河の持つ可能性をそんなに簡単に切り捨てたりはしない。町の中心のきれいな再開発エリアだけを残すオプションもあっただろう。だがネットワークにつながっていない水辺になんの魅力があるのだろうか。

「せっかく泳いでんのにボートがたくさん来るから飛び込めないんだよ!」
 タバコを吹かしながらうそぶく少年の顔は、やはり屈託のない少年そのものでもあった。

運河の通るカントリーサイドは確かに美しい。だが運河のたどってきた栄光と挫折、そして復活の足跡は、街とその周辺にこそあるのである。



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by narrowboat | 2006-03-02 15:02 | エッセイ | Comments(2)
大ブリテンおよび北アイルランド連合王国。

これが一般に「イギリス」と呼ばれている国の正式名称である。この本でもその慣わしに従っているが、「イギリス」がイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの“国”の総称であることは、改めて説明する必要もない。

ところが話を運河に移すと「イギリスの運河」といった場合、そのほとんどはイングランドのことを指す。そもそもバーミンガムやマンチェスターを中心に発達したネットワークなのだが、それがイングランドを越えて広がることはなかった。

現在航行可能な運河として、ポントカサステ水道橋のあるスランゴスレン運河は確かにウェールズにあるが、これはイングランドから延びた運河の先がちょっとだけウェールズにお邪魔している、という感じでしかない。

ウェールズにはもうひとつ、特異な存在としてモンマスシャー&ブレコン運河がある。ブレコンビーコンズ国立公園の中にあるこの運河は、イングランドのネットワークから切り離されていて、ほかの場所からボートで来ることはできない。わずか56キロの小さな運河の中だけで遊ぶことになる。

炭鉱地帯でもあったウェールズには南部の沿岸都市へ石炭を運ぶタテ(南北)の運河がたくさんあったのだが、現在そのほとんどが航行不能状態。このモンマスシャー&ブレコン運河もかつては海まで通じていたのだが、その一部だけがオープンしている格好になっている。

それに対してスコットランドには大きな運河が2つある。ひとつはエジンバラとグラスゴーを結ぶユニオン運河とフォース&クライド運河、もうひとつはカレドニアン運河である。

ところがこの2本、イングランドの運河からはまったく孤立している上に、お互いリンクもしていない。1艘のボートでクルーズすることは事実上不可能なのだ。

ユニオン運河とフォース&クライド運河。正確には別々の運河なのだが、この2つをつなぐファルカークという場所には大きな高低差があり、かつてはたくさんのロックで越えていた。運河が使われなくなってそのロックも廃棄されてしまっていたのだが、2002年、この場所に船のエレベーター「ファルカーク・ホイール」が完成。ボートを水に浮かせたまま観覧車のようにボートを上下させる画期的な装置の登場で、2つの運河は再び1本につながったのである。

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これはカレドニアン運河の出口。スコットランドの「国旗」、ユニオンジャックとともにスウェーデンの国旗が掲げられているのは、スウェーデンのヨータ運河とカレドニアン運河はともにテルフォードの作品であるため

もう1本のカレドニアン運河は「ハイランド」と呼ばれるスコットランド北部を横断するもので、グレン・コーという大地溝帯に沿ってできた3つの湖━ロッヒー湖、オイッホ湖、そしてネス湖━の間をつないで1つの水路に仕立て上げている。沿岸輸送が困難だった時代、大西洋と北海をつなぐ航路として掘削されたこの運河は、土木技師トーマス・テルフォードの傑作として今でもその存在感を漂わせている。

c0027849_1627194.jpg細かいものを除けばスコットランドには以上2つの運河しかないのだが、運河を管轄するブリティッシュ・ウォーターウェイズ(BW)はイングランドとは別組織。たった2つなのに独立した組織が独立した予算を持っている。議会も紙幣も独自のものを持ち、祝日さえイングランドと違うスコットランドらしいといえばそれまでだが。
写真はユニオン運河のロックキーパー。BWの制服もイングランドと違う

スコットランドで日本人がまず思い浮かべるのはスコッチウィスキーだろう。そしてスコッチの原料や製品の輸送にも運河が使われていた。

たとえば「グレンアルビン」、「グレンモール」というブランドを作っていたハイランド地方の蒸留所はカレドニアン運河沿いに建設されている。南に下ってローランド地方では「ローズバンク」を蒸留していた会社が、フォース&クライド運河沿いに工場を構えていた。

残念ながらこれらの蒸留所は現在すべて閉鎖、もしくは操業停止となっていて、運河との関わりを示すものは、もう何もない。



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by narrowboat | 2006-02-28 16:30 | エッセイ | Comments(0)
イギリスで運河の旅をしています、と言うと、
「では釣りをなさるのですね」
とオウム返しされることがある。

私のようなボーターとっては運河=ボートでしかないのだが、日本という国はちょっと特殊で、ボートを所有する理由の9割までが「釣り」なのだそうだ。さらにフライフィッシングをはじめ、イギリスは釣り師あこがれの国。そこで日本では、運河→ボート→釣り、という三段論法が成り立ってしまうのだ

日本人がなぜこういう連想をするか、というもうひとつの理由に『釣魚大全』という古典的な名著の存在がある。随筆家アイザック・ウォルトン(1593~1683)の作品としてあまりにも有名なこの本のおかげで、イギリスで水辺まで行っておいて釣りをしないとは? と訝しがられる結果になる。

ウォルトンはこの本で、魚の種類による釣り方、毛ばりの作り方などを説いている。しかし釣りのマニュアル本ではなく、釣りを通した喜びや素晴らしさを延々と書いているに過ぎない。いわばイギリス中世の『釣りバカ日記』である。

まあそれはそれでいいのだが、運河と釣りを直結させる方々に大事なことを教えておこう。ボーターとアングラー(釣り師)は仲が悪いのだ。

よく考えれば当然だ。アングラーからみればタナをかき回すボートは不愉快きわまりなく、ボーターにとって長い竿はじゃまでしかない。この2者は決して相容れない存在なのである。

運河で何が釣れるのか実はよく知らないが、ボートを進めていると、竿を出してじっと座っているアングラーに1日何人も会う。彼らはボートが来ると竿をどけてくれるので、ご親切に、と思うかもしれないが、心の中では舌打ちしているのだ。
「ボートが優先、というルールさえなければ!」
運河では、わずかだがボーターかつアングラーという人を見たことがある。しかしボートで釣りをする人は、イングランドよりもむしろネス湖などスコットランドの湖、アイルランドの河川に行くのではないだろうか。これらの場所では、プラスチックのボートで広い水路を豪快に駆け回りながらポイントを探し、大物を狙える。

アングラーにはアングラーの「リアル」があり、彼らはそれを追及している。だがそれは、ボーターの「リアル」とは水と油の関係らしい。

しかしウォルトンは言う。
「ああ、素晴らしき釣りの人生、それは、いかなる生涯にもまさる。(中略)他の楽しみは、玩具にすぎず、これのみが、掟に適う」(同書308ページより)
なるほど、ナローボートなどという“玩具”で遊ぶボーターなど、アングラーからしてみればケンカをふっかける価値もないらしい。



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by narrowboat | 2006-02-22 14:39 | エッセイ | Comments(2)