イギリスの運河ではナローボートという船を借りて、誰でも免許なしでクルーズが楽しめる。『英国運河の旅』、『イギリス式極楽水上生活』、『イギリス水辺の旅』の著者が具体的な旅のノウハウを伝授します。


by narrowboat
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ウィンディングホール:風では廻れない?

 イギリスの運河の幅は広くても10メートルにも満たない。ところがナローボートは短いもので40フィート(約13メートル)程度、長いものだと72フィート(約24メートル)に達する。この電車1両分の長さにも匹敵する船体をUターンさせるにはどうすればいいでしょう?
 一休さんなら、ここでトンチを効かせた妙案を出してくれるかもしれない。さてさて・・・・・。答は、河岸を削り取り、ナローボートが切り返してUターンできるスペース「ウィンディングホール」を造ることだ。
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「なんだ、つまらん」
 そう言わないでほしい。確かに運河の幅は広ければ広いほど通行には便利だ。だがその分建設費用が高くつくのは道理。橋を架けるのだって、長い橋桁を用意しなければならない。コストを最優先にして運河を造った結果、そのアダバナとして造らざるを得なかったのがウィンディングホールなのである。
 旧日本道路公団は、「最上級の技術」をうたい文句に道路建設には金に糸目をつけなかった。1時間に何百台しか走らないような山奥の高速道路に立派な3車線が通っているのもそのせいである。
 それも国民の税金だと思えば、公団職員の心はチクリとも痛まなかったに違いない。が、イギリスの運河は元々民間企業が建設したものである。1フィートでも狭く造り、1ポンドでも余計に稼がなければならないというのが至上命令だったのだ。
 さてウィンディングホールであるが、ハイヤーカンパニーでボートを借りる場合、ウィンディングホールでUターンして帰ってくることになるので、その位置は地図できっちりチェックしておかなければならない。1つ逃すと次のウィンディングホールまで1時間後、なんてことになると、予定の大幅変更を強いられる羽目になる。



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 ウィンディングホールでのUターンは、ナローボートの操縦の中でもいちばん難しい。
 まず岸に対して船首をなるべく直角に近い角度でウィンディングホールに入れる。ホールの岸が鉄板などで護岸されていれば、船首のフェンダーが岸にぶつかっても構わない。次にティラーを逆に切り、スロットルをバックに入れて船尾からウィンディングホールを出て行く。
 これは車の切り返しとまったくいっしょなのだが、私は1回で切り返せたためしがない。特に風でもあると船体が押され、スロットルを前後に何回も倒しながら、ほうほうの体でウィンディングホールを抜け出す羽目になる。
 「風」ついでにウィンディングホールの不思議な話をひとつ。
 ウィンディングホールはWINDING HOLEとつづるが、かつてエンジンがなかった頃は、風の力(ウィンディング)を使って切り返しをしていたというのだ。
 これを聞いたとき、故人の知恵というのは素晴らしいなあ、と単純に感動した私だったが、よく考えてみると、Uターンするボートに都合のいい方角に風がいつも吹くわけはない。それに帆もないナローボートがなぜ風で? 
 だからこれは、同じつづりでも「ウィンディング」ではなく「ワインディング」と読むのではないか? つまり曲がる(ワインディング)ための穴(ホール)、と解釈したほうが妥当ではないのだろうか。
 実際、ワインディングと読むボーターも多い。が、科学的にはどう考えても不合理でも、あえてウィンディングと読み続けるところに、200年の歴史を経て生きるボーターの粋がある。


☆発行者 カナルマニアHP
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by narrowboat | 2005-11-15 19:59 | エッセイ | Comments(0)