イギリスの運河ではナローボートという船を借りて、誰でも免許なしでクルーズが楽しめる。『英国運河の旅』、『イギリス式極楽水上生活』、『イギリス水辺の旅』の著者が具体的な旅のノウハウを伝授します。


by narrowboat
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ボートクッキング:まずければ作れ!

 しょっちゅうイギリスに行っている、というと必ずこういう答が返ってくる。
「イギリス? どうしてあんなメシがマズい国なんかに・・・・・!」
 毎回同じことを言われ、まともに返事するのをあきらめている私だが、そんなことを言う人に限ってイギリスに行ったことがないか、まともなものを食べさせてもらえなかったかわいそうな経験の持ち主であることが多い。もっとも、イギリスの名誉のために言っておくと、イギリスでは「メシがマズい」のではなく「美味いメシが少ない」のである。うーん、同じことか。

 だがナローボートの旅なら、イギリスの食事についてとやかく心配する必要はまったくない。船に立派なキッチンが付いているのだから、文句がある人は自分で作ればいいだけのことだ。
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 初めてナローボートに乗ったとき、そのキッチンがイギリスの一般家庭のものとほとんど変わらなかったことに意外な思いをした。4口のガスコンロ、その下にオーブンとグリル、シンクの大きさも家庭とほぼ同じ。お湯と水の蛇口が別々で使いにくいこと極まりないところまでいっしょなのである。ボートによっては電子レンジもあって、もっと簡素なキッチンを想像していた私にはちょっとした驚きであった。
 このキッチンがあれば、できない料理はない。いっしょに乗った友人の中には本格カレーを作った人や、皮から餃子を打った人までいる。もっとも私が妻と2人で乗る時は、イギリス流シンプルクッキングを気取って野菜を煮込むだけ、ということも多い。野菜を炒めて中華麺と和えれば焼きそばの出来上がり。市販のソースをパスタにかけるだけ、なんていう手抜きもよくやる。

 リーズ&リバプール運河を旅したときは、友人の指揮で鶏の丸焼き作ったことがある。鶏1匹(ホールチキン)は、クリスマスに限らず、どんなスーパーでも手に入る。その中に野菜などを詰めてオーブンで焼くだけなので、見栄えの豪華さに比べて調理は簡単なのだ。
 鶏が少しずつ焼けてきたら、トレイに落ちた脂をスプーンでかけてやる。そんな作業をはじめる頃になると、みんなの手にはもう赤ワインがなみなみと注がれたグラスが収まっていた。

 ところで、私の手元に『おいしいボートのレシピ』という英語の本がある。どこかのショップで買ったものだが、昔のボートマンが作っていたであろう料理のレシピを紹介した小冊子である。特にボートでなければできないという料理はないが、運河沿いで採れる野菜や鳥獣類を使ったメニューを中心に34の料理が載っている。とはいってもそこはイギリス、ほとんどが「煮る」料理。忙しい作業をしながらでも鍋をかけておけばOKということなのだろうが、この悪しき(?)伝統は今では陸の上でも受け継がれている。

 1日のクルーズを終えてボートを係留してトゥパスを歩くと、岸に並んだ船からは食欲を誘う匂いがこぼれてくる。日が傾くにはまだ早い夏のイギリス。その気長な太陽の下でディナーを食べられる経験は、ナローボートでしかできないのだから。

☆発行者 カナルマニアHP
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by narrowboat | 2005-11-26 17:22 | エッセイ | Comments(0)