イギリスの運河ではナローボートという船を借りて、誰でも免許なしでクルーズが楽しめる。『英国運河の旅』、『イギリス式極楽水上生活』、『イギリス水辺の旅』の著者が具体的な旅のノウハウを伝授します。


by narrowboat
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運河トンネル:ボートはよくても馬はダメ?

イギリスは平野ばかりだと思い込んでいる人は多いが、実は本当に平らな場所はそれほど多くない。町だって坂だらけのところが多いし、田舎に行けば緑の丘が何層にも連なって見える。イングランドに1000メートルを越える山はないのだから日本に比べればたいしたことはないのだが、そこに水の道・運河を通すとなれば話は別だ。丘陵地帯が続くイギリスで運河を建設するというのは並大抵な技術ではないのである。
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そこでイギリス人は運河にトンネルを作りまくった。その数100あまり。ロックをいくつもつなげては通過に時間がかかりすぎる場所では、山の横っ腹に穴を開けて運河を通してしまう。

もっとも長いトンネルはハダースフィールド・ナロー運河にあるスタンデッジ・トンネルで、全長は5210メートルにもなる。ナローボートのスピードは時速5キロ程度だから、トンネルに入ったら最後、1時間は出られない計算だ。だが実際にトンネルに入ると、真っ暗な中で方向感覚が消え失せてジグザグに進みだすので、実質的なスピードはもっと落ちる。私がハイヤーボートで入ったいちばん長いトンネルはワストヒル・トンネル。ここは2493メートルあるのだが、これでも1時間近くかかった記憶がある。

トレント&マージー運河にあるヘアカッスル・トンネル(2676メートル)には、片方からボートが入るとその入口を閉ざし、中に入ったボートを外部から取り込んだ空気で押し出していく「ベンチレーション」というシステムがある。トンネル内は一方通行になっているので、「トンネルキーパー」という係員が両側の出入口で交通整理をしている。

ヘアカッスルではこのシステムが導入される前、「タグ」という機械があった。タグは水底に敷いたレールで動く機関車みたいなもので、トンネルに入ったボートはこのタグに曳かれて反対側に出て行ったのだそうだ。

運河のトンネルにいろいろユニークな仕掛けがあるのには訳がある。馬がボートを曳いていた時代でも、暗くて狭いトンネルには馬が入りたがらなかった。だからトンネル内でボートを進める工夫がどうしても必要になる。

一般的だったのは、ボートマンたちが船の屋根に寝っ転がり、足でトンネルの壁を蹴りながらボートを押す「レッギング」。その後トンネルによっては出入口に「レッガー」と呼ばれたレッギング屋がたむろするようになり、有料でトンネル内のボート押し(蹴り?)をしていたそうだ。

一方、入口で手綱を放された馬は丘を越えて出口でボートを待つ。利口な馬になると、人間がいっしょについていかなくても1匹だけでちゃんと出口までたどり着いていたというから、馬というのは本当に頭のいい動物だ。

運河のトンネルは、その多くが1700年代末から1800年代前半に建設されている。この時代にこれだけのトンネルを造るということにイギリスの土木技術の水準の高さを見る思いがするのだが、さすがに測量が今ほどは正確ではなかったのか、途中で意味不明にカクっと曲がっている場所があることも。両側から掘り進めてきて、
「しまった! ちょっとずれた!」
なんてことがあったんでしょうね。


☆発行者 カナルマニアHP
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by narrowboat | 2005-12-01 12:42 | エッセイ | Comments(0)