イギリスの運河ではナローボートという船を借りて、誰でも免許なしでクルーズが楽しめる。『英国運河の旅』、『イギリス式極楽水上生活』、『イギリス水辺の旅』の著者が具体的な旅のノウハウを伝授します。


by narrowboat
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ロックキーパー:水門の交通整理係

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ボートがロックに近づくと、男が小屋からのっそりと出てくる。ボートから投げられたもやい綱をパッと受け取ると、ボラードにクルリと回し、再びボートマンに綱の先を返す。そしてロックのゲートをお尻でゆっくりと押し、ガチャガチャとギアを回し始める。

「この先のロック、水がリークしてるみたいだな・・・・・。水かさが少しずつ上がっているぜ」

ロックの扉のすき間からわずかに漏れるリーク(水漏れ)も見逃さない鋭い目。ロックキーパーは、そのロックの全責任を持つ“番人”でもある。

しかしこれは昔の話。現在の運河では、ロックキーパーという職は確かにあるものの、車で巡回しながらロックを点検する程度に過ぎない。もちろん、何かトラブルがあれば電話一本で駆けつけてくれるありがたい存在ではあるが、プレジャーボートが主体の今となっては、昔ほどの重責ではないだろう。

ロックキーパーが今でも健在というロックは、川と運河の間にある大きな機械式ロック、リーズ&リバプール運河のビングリー5段ロックやグランドユニオン運河のフォックストン5段ロックなどのステアケース・ロックくらい。これらのロックは操作が複雑だったり、ボートが入る順番を指示しなければならないので、ロックキーパーが常駐している。

しかしテムズ川では各ロックに専属キーパーが働いていた。私がクルーズしたのは夏の真っ盛りだったこともあって、ロックキーパーの下には学生ボランティアも汗を流していたのを覚えている。またエイボン川では「片腕ジャック」の異名を持つ名物ロックキーパーが最近まで現役だった。作業中の事故で片腕を失ったが、それでもロックキーパーを続けたという伝説の男である。

ロックに手漕ぎボートが入った。しかしボートが出てきたとき、そこにあったのは一体の死体。ロックの中で何があったのか?
イギリスのクラシカル・ミステリーのひとつ『閘門の足跡』では、殺人事件の重要な証言を担うのがそのロックのキーパーだった。この本でも描かれているように、ロックキーパーは担当するロックのすぐ横にある家に住んでいた。ロックを管理しながら、花を植えて彩を添え、野菜を育てて食用にする。花も団子も、生活のすべてがロックで営まれていたのだ。


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現在、ロックキーパーはその水路を管理する組織の職員なので、運河ならブリティッシュ・ウォーターウェイズ、テムズ川上流なら環境庁から派遣されている。かつてはロックの生き字引のような職人キーパーが自分のロックに誇りを持って働いていたが、今はサラリーマン的にとつとつと仕事を片付けるだけの人も多い。残念ながら、それも時代とともに生きる運河の宿命か。



☆発行者 カナルマニアHP
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by narrowboat | 2005-12-07 17:12 | エッセイ | Comments(0)