イギリスの運河ではナローボートという船を借りて、誰でも免許なしでクルーズが楽しめる。『英国運河の旅』、『イギリス式極楽水上生活』、『イギリス水辺の旅』の著者が具体的な旅のノウハウを伝授します。


by narrowboat
カレンダー
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

古いものほど信用できる:新しいボートほど危ない?

風と共に去りぬ

イギリスに留学していたときのことである。

入居した寮は私の入学直前にできたばかりの新築。各部屋にシャワーとトイレがあるという寮は当時ここだけだった。ところが暮らしはじめて数週間で、シャワーとトイレがあるバスルームの排水溝から汚水が噴出すということが頻繁に起こるようになる。私の部屋だけではない、ほかの学生からも同じような事故が報告された。

業者を呼んで調べてみると、なんと排水パイプの中に建築資材のコンクリートが詰まっていたのだ。日本だったら手抜き工事で大問題になりそうだが、何事にもアバウトなイギリスの建築業者ならさもありなん、というところかもしれない。

このいい加減な工事の責任を学校側に取らせるべく「ワーデン」と呼ばれる寮監に交渉に行った時のこと、そのワーデン氏は苦々しく口にした。
「新しいモノにはトラブルがあって当たり前じゃないか!」
新しいものは常に100%信頼できる。家だって新築のほうがいいに決まっているし、車だって新車のほうが中古車よりトラブルが少ない。そう信じて疑わなかった私にとって、これは今でも忘れられないカルチャーショックな発言だった。

新しいものより使い古したもののほうが信頼できる。このイギリス人共通の発想は、ナローボートにも当てはまる。

ハイヤーカンパニーは毎年そのシーズンのパンフレットを発行しているが、その中には「今年のニューボート!」と謳ったナローボートがラインナップされていることがある。シーズン前に造船したピカピカの船、ということなのだが、これには注意を要する! 新しいボートということは、誰もまだ使っていないということ。もちろんシーズンに入って何組かが利用したかもしれないが、まだ数回ということだろう。どこにトラブルが潜んでいるかわからないではないか。

新品よりはましかもしれないが、使い古したものだって完全に信頼できるものではない。私が借りたボートでも、トラブルを挙げれば片手の指くらいは楽に思い出せる。ビックリしたのはエンジンがもうもうと黒い煙を上げはじめた事故だったが、そこまで行かない小さなトラブルは毎回と言ってもいいだろう。

そんな時のために、ハイヤーカンパニーではエンジニアを雇っている。ちゃんとした会社では基本的に24時間体制で、夜中でも電話すればエンジニアが駆けつけてくれる。なにせこちらは時速5キロほどで移動しているだけなので、出航から数日経っていても、彼らは車で1時間以内に「事故現場」に到着してくれるだろう。

ナローボートを買う場合も同じだ。何万ポンドもの金を積んで新しいボートを作ったはいいが、出来上がってみたら電気の配線やボルトの位置が間違いだらけ、なんてことも珍しくないそうだ。

ボートだけではない。運河自体の事故もある。私自身が船で遭ったものではないが、ロックのトラブルで完全に水を抜いて修理している場面に出くわしたことがあった。ロックはブリティッシュ・ウォーターウェイズの管轄だが、修理には時間もかかる。道路と違って迂回路があるわけでもない。そこまでボートで来た人は、とんだ足止めを何時間、もしくは数日も食らうことになる。

運河は200年以上も前の建造物なのだから大目に見るとしても、新しいか古いかということ以前に、プロダクツ(製品)は直しながら使うものだとイギリス人は考えている。ちょっとした故障はあって当たり前、運河の旅だって、そんなトラブルを最初から計算に入れてプランを立てているのだ。

ボートに異変を感じたら携帯電話でさっそくハイヤーカンパニーに連絡。太陽がまだ高いうちからビールの栓を早々と抜くのもいい。時間通りに進むことなど最初から考えていなかった旅だったことを改めて思い出そう。こんなことでイライラするより、ビールの酔いをさっさと頭に巡らせるほうが得策に違いない。



もっと詳しく知りたい方は『英国運河の旅』をどうぞ!

☆発行者 カナルマニアHP
[PR]
Commented by Madorena at 2006-01-07 00:14
TBありがとうございました。配水管にコンクリで驚かなくなった自分も少々ここの水に馴染んで来ておりますようで(笑)
「古くて長く続いているものが信頼できる」という発想は日本人には新鮮ですね。確かにボートや船は、歴戦の方が頼もしげな気がします。
Commented by narrowboat at 2006-01-13 15:57
こちらこそいいきっかけをいただきましてありがとうございました。このシリーズはまだ続きますので、どうぞよろしくお願いします。
by narrowboat | 2006-01-06 23:18 | エッセイ | Comments(2)