イギリスの運河ではナローボートという船を借りて、誰でも免許なしでクルーズが楽しめる。『英国運河の旅』、『イギリス式極楽水上生活』、『イギリス水辺の旅』の著者が具体的な旅のノウハウを伝授します。


by narrowboat
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朝食:運河の上の特別な時間

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運河の上では、朝は特別な時間だ。

気温の上昇とともに、水面からうっすらと立ち上る水蒸気。その中を飛び回る小鳥たちの声に起こされそうになりながらまどろみを続けていると、水鳥が船底に付いた藻をついばむコンコン、という音が枕の下から夢の中に伝わってくる。

鳥たちの朝の営みが一段落すると、そろそろ私たちもお目覚めの時間になる。

妻と2人で乗る場合、朝食の担当は私だ。元々料理とかはあまり好きではないのだが、ボートで迎える朝をより幸せな時間にするため、朝は進んでキッチンに立つと決めている。

まずヤカンをコンロにかける。お湯が沸いたらコーヒーのセッティング。最初はインスタントで我慢していた私だが、プラスチック製のドリップを購入してからは、それを持参してレギュラーを淹れるのが日課になった。

コーヒーが全部落ちたら、それをすすりながら朝食の準備にかかる。定番はベーコンエッグ。フライパンにベーコンを落とすと、ジュー、という音とともにベーコンが縮んでいく。その焼き具合を見計らいながら、玉子をコンと割って落とす。

ベーコンエッグと平行してトーストも焼かなければいけない。パンは、漂白していないオールミール(ブラウン)に限る。ボソボソした食感がいただけないという人も日本人には多いが、トーストにしてカリッと仕上げると、これが不思議なことにベーコンエッグによく合うのだ。

グリルの中でトーストが焼ける頃になると、ベーコン、コーヒーそしてトーストがかもし出す匂いでキャビンが満たされる。このとき私は、ナローボートに乗ってイギリス運河を旅していることの喜びを強く感じる。

イギリスで最も美しいのは「カントリーサイド」と呼ばれる田園地帯なのだ。運河があるのもこのカントリーサイドが中心になる。だが普通の旅行では、こんな場所で朝を迎えるチャンスはない。せいぜい、日が昇ってから観光バスの車窓から見るのが関の山だろう。

ボートに乗れば、毎朝がカントリーサイドだ。作った朝食を、ダイニングでなくフォアデッキ(前甲板)で取れば、カントリーサイドの空気がデザートとして付いてくる。

運河を旅していれば、ロックやアクアダクトなどのエキサイティングなシーンはたくさんある。だが、いちばん幸せな瞬間と聞かれれば、私は迷わずボートで迎える朝と答えるだろう。ほかの場所では絶対に感じることができない空気の中、キャビンに広がる至福の時間は、何物にも代えがたいものなのである。

トップの写真はYさんよりご提供いただきました。



もっと詳しく知りたい方は『英国運河の旅』をどうぞ!

☆発行者 カナルマニアHP
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Commented by Madorena at 2006-02-08 04:01
読んでいてかぐわしい幸福のアロマが伝わってくるようです。
I.ウォルトンやギッシングが描くような「英国の人生の愉しみ」をnarrowboatさんも満喫なさってらっしゃるんですね。
Commented by narrowboat at 2006-02-08 15:42
日本でも自宅のキッチンで同じものを作りますが、なぜかボートの上だと美味い! これも運河のなせるワザなのかもしれません。ウォルトンの『釣魚大全』については私もよく聞かれるので読みましたが、実はボーターとアングラーって仲が悪いんですよ(笑)>Madorenaさん
Commented by Madorena at 2006-02-08 16:05
>ボーターとアングラー え、そうなんですか(笑)あの本や開高健さんの著書は釣りに縁がない私でも面白かったんで、釣りだけでなくお魚や川や海に向かい合う人間を描いてる感じがします。
Commented by narrowboat at 2006-02-10 17:01
ボーターもアングラーも、同じように水を愛しているんですが、そのベクトルが全然違う(笑) でもイギリスの場合は舟が絶対優先なんでトラブルはないですけどね。
by narrowboat | 2006-02-07 19:07 | エッセイ | Comments(4)