イギリスの運河ではナローボートという船を借りて、誰でも免許なしでクルーズが楽しめる。『英国運河の旅』、『イギリス式極楽水上生活』、『イギリス水辺の旅』の著者が具体的な旅のノウハウを伝授します。


by narrowboat
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バンダリズム:暴力に耐える運河

リーズ&リバプール運河をクルーズしていた私たちのナローボートは、最後の目的地リーズに向けて最後のロックに入ろうとしていた。だがロックのまわりではなにやら子供たちが大騒ぎしている。彼らもボートで来ているのだろうか。

ロックキーを持ってボートから降り、ロックに近づいてみると、なんとその子供たちはロックの中で泳いでいるではないか!

はしごから上がっては次々と飛び込む子供たち。どうしてこんな汚い水の中に・・・・・。

私たちのボートが来たので仕方なく岸に上がりはじめた彼ら、するとそのうちの1人が平然とタバコを吸い出したのである。日本で言うと小学校2~3年生くらいだろうか、タバコをふかす高校生は日本でも珍しくないが、白昼堂々と人前でタバコを吸う小学生はさすがに見ない。

驚いたのはそれだけではなかった。子供たちの親らしい大人もロックにいたのである。つまりロックでの遊泳も喫煙も、親の“公認”だったのである。

イギリスの運河は、石炭などの原料の産地と工業都市を結ぶために建設されたものだ。その途中は牧場や畑、いわゆるカントリーサイドになるが、両端は当然、街である。道路と同じことで、田舎があり、街があるのが運河なのだ。

ところがこれらの街は、イギリス重工業の衰退とともにどんどん寂れていき、いわゆる「インナーシティ問題」がクローズアップされるようになる。インナーシティ問題とは、都市中心部に空き家になった工場や倉庫が増えることで、治安の悪化などが懸念される。だがウォーターフロントの再開発プロジェクトなどにより、それも解決の方向にある。

しかしそれらのプロジェクトから取り残されてしまっているのが、街に入る手前、周辺のエリアである。

冒頭で書いたリーズも、市内の港「グラナリー・ワーフ」こそ再開発が進んでおしゃれな雰囲気だが、その手前は荒んだまま。マンチェスター、バーミンガム、そしてシェフィールドと運河の水辺の再開発で有名な場所を私はいくつも訪ねたが、どこでもプロジェクトエリアのすぐ外側にかなりヤバそうな雰囲気が今も残っているのだ。
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このような場所は、自然とワルの溜まり場となる。悪党が集うのは港か川岸と日本でもイギリスでも相場が決まっている。それは誇張にしても、運河沿いの廃工場の落書き、立小便の臭い、水面に浮かぶプラスチックのごみの束を見れば、誰だって逃げたくなる。

ナローボートで何日かクルーズする以上、こんなバッドエリアを通らざるを得ないことはままある。だがワルたちが跋扈するのは、これも夕方以降と相場が決まっているので、日中太陽の高いうちに通過するようにすればいい。もちろん係留するとしたら昼間だけで、夜を過ごすことは絶対に避ける。

イギリスの運河では、ワルたちの「バンダリズム」も問題になっている。公共物などをむやみに破壊する行為がバンダリズムだが、公衆電話やバス停だけでなく、運河もバンダリズムの標的。運河の専門雑誌やウェブサイトなどでも、ロックその他の施設がバンダリズムによって破壊された記事を目にする。

自分たちの先人が作り、自分たちが育ててきた偉大な遺産をむやみに破壊するなどという蛮行は腹立たしく、残念でもあるのだが、相変わらず高い失業率の中で、やり場のない怒りを運河に向けてしまわざるを得ないのもイギリスが抱える現状なのだ。

しかし私は、これもイギリス運河の宿命、というか魅力のひとつだと思っている。もしこれが日本なら、そんな危ない場所は埋めてしまえ! とばかりに運河そのものが消え去ってしまった可能性は高い。だがイギリスでは、運河の持つ可能性をそんなに簡単に切り捨てたりはしない。町の中心のきれいな再開発エリアだけを残すオプションもあっただろう。だがネットワークにつながっていない水辺になんの魅力があるのだろうか。

「せっかく泳いでんのにボートがたくさん来るから飛び込めないんだよ!」
 タバコを吹かしながらうそぶく少年の顔は、やはり屈託のない少年そのものでもあった。

運河の通るカントリーサイドは確かに美しい。だが運河のたどってきた栄光と挫折、そして復活の足跡は、街とその周辺にこそあるのである。



もっと詳しく知りたい方は『英国運河の旅』をどうぞ!

☆発行者 カナルマニアHP
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Commented by Madorena at 2006-03-04 03:25
うちの辺りは眠ったようなのどかな住宅地ですが、それでもバス停のプラスチック壁が叩き割られてたりすることがあります。
行き場のないやりきれなさが確かに、あるんですよね…
Commented by narrowboat at 2006-03-06 19:44
私が留学していたヨークシャーは結構ひどかったですよ。でも日本も最近同じような雰囲気になってきたような気がするのは私だけでしょうか。
by narrowboat | 2006-03-02 15:02 | エッセイ | Comments(2)